ここまでお読みくださいましてお気づきの方も多いかと思いますが、山鳥毛刃文帯の技法や技術的なことをほとんど語っておりません。思い100%の先行型の企画で投げられたボールを私が勝手に拾って手放さず数少ないチャンスを逃さず壇上にたどり着いたプロジェクトの振り返りだからだと思います。
条件も納期もなく漠然としたカタチなき構想、正式なお仕事ではないものを完成させるためのモチベーション、心の支えはライフワークとして刀剣の世界を学びたいという姿勢とものづくりをする人間の意地、美しいものを表現したいという矜持以外はありませんでした。
企画やプロジェクトは様々な理由により立ち消えになることが多くあります。
構想の実現化への道のりは半端なものではありません。
山鳥毛の帯地プロジェクトは補助金制度の活用やクラウドファンディングの資金調達目途を活用した取り組みでもありません。
企画はプロ野球のバッターボックスに立つ打者で例えると10打数3安打の3割をシーズンの一定期間安定して打てる三割打者。3割打者で超一流、、、それでいいんじゃない?と弊社会長の父からの言葉。
10の企画を3当てたらそらすごいけどそれは市場に出て初めて話題にできる話です。
ゼロからの立ち上げ案件、研究・開発はまた違います。
膨大な研究調査や取材に加えて試作品の製作、トライ&エラーの繰り返しが必要となります。
開発資金も何にもない僕に出来ることはマニアックな作家ならではの取材と粘り、ガッツと根性。
上杉謙信公から与えられた宿題だ!!!と言い聞かせたりしつつ、とにかく歴史から何から外堀りなのか内堀りなのか分からなくても成功率をあげるためのヒント、チャンスはひとつも逃さないで攻めていくという想いで取り組むも試作の段階で失敗の連続。
刃文以前に刃物の色彩を織りあげた裂地(きれじ)のサンプル制作を機屋さんと共に取り組んでみるものの、私の描く織物図案が太刀・山鳥毛の原寸大を初期段階で目指したものですから細かすぎて御刀の良さがまったく表現できていないという現実。
試作品を見た方から「秋刀魚ですか??」と手厳しいフィードバック。そんな試作のテストを繰り返すものの、山鳥毛の原寸大は技術的な面以外に「カタナ」のイメージが強すぎてマニアのみをターゲット層にしない方がいいと感じて考え方を変えました。
山鳥毛を知らない一般の方が見ても素敵だと思っていただける上品な仕上げにしよう。
そう思い柄の大きさや配置を縦横斜太細問わず納得するまで試し織を続けました。
世に出る以前のお話です。予算しかり、手弁当での持ち出しは思う以上に大変でまわりからは仕事にもならないもの何やってるんだか!という空気と開発に打ち込むわたしを心配する工房スタッフ。
水面下での暗中模索、五里霧中の研究を続けているそんなある日、長年ものづくりに携わってきた者の勘として「あ、これ絶対に行ける」と確信を持てる一定のラインまで届いた様に思うものが織りあがりました。
それを携え備前長船へ。
第5話おわり
令和5年3月20日更新(つづく)